佐藤遊歩句集 2010年
【新年】
初詣町の数だけ神が居り
元旦やこんな日だから何もせず
元日や開く手帳の白さかな
新手帳この空白を埋めるもの
肩深く少し温めの初湯かな
【春】
梅が枝のその先にある香りかな
内裏雛親王様は草食系
初恋は三人官女の右の人
春霞昭和はすでに半透明
草もちを二つ平らげ王手飛車
朝走者霞の中から一人ずつ
春霞街は輪郭だけとなり
茹で玉子つるりと剥けて入社式
入社式薄皮剥けし茹で玉子
見えなくてよきものもあり春霞
ページトップへ 【夏】
雨蛙大ジャンプして黙考す
新茶とはボージョレヌーボと相似たり
少年の若葉のような太宰かな
雨後の庭新参者あり雨蛙
ハンカチを額の幅に折る律儀
白扇を二折開き自問する
白扇や扇ぐでもなく半開き
手枕の遠慮がちなる昼寝かな
冷奴左角から崩しけり
夏みかんてこずる程の旨さかな
【秋】
わが地球(ほし)も下流の一粒天の川
ページトップへ 打ち水にわが身の火照り鎮められ
優しき目秋刀魚静かに食われゆく
路上ライブ提琴(ヴぁいおりん)弾きはキリギリス
ひとくさり利休魯山人秋刀魚焼く
天高し本日瑣事にこだわらず
天高し見えない星のキラキラと
金賞は誰が取っても菊のもの
傷を持つ梨皮厚く剥かれゐる
秋雨や過去の不安のしとしとと
栗を剥くその爪先に縄文人
栗飯や昭和一けた機嫌よし
あるだけの部屋の灯を消し星月夜
秋の雨消え入るような過去ばかり
虫の音の夜を支配するハ短調
恋愛論閑話休題栗を剥く
栗を剥く手こずる程の旨さかな
秋雨やポツリと一滴過去の事
秋の雨思案の滴ポツリかな
あるだけの景色従え柿熟れる
柿喰えばありったけの空染まりけり
染まりゆくありったけの空熟柿かな
柿熟れてありったけの空染まりけり
暮れてなお辺りの光り熟柿かな
松茸のまだよく採れた頃育ちけり
生きるとは他を喰ふうこと齧る秋
秋の陽の一目散に沈みけり
秋深し一年分の物思ひ
生きるとは他を喰らふこと愁思かな
秋齧るいただく身なれ他のいのち
秋の陽は逃げるがごとく沈みけり
晩秋や一年分の物思ひ
【冬】
その路地に荷風の背中十二月
仲見世や外套の(ひと)荷風似で
羽子板や担ぎ切れない程の夢
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