佐藤遊歩句集 2011年
【新年】
それぞれの部屋に画幅の初暦
【春】
薄霞大事なものはぼんやりと
白きもの一片落ちて冴返る
薄霞大事なことは手探りで
朝霞走者中から一人ずつ
内裏雛お顔はどこか卑弥呼似で
雛の国六畳一間の段飾り
春雨や一雨ごとに大人びて
猛獣の欠伸大きく春を呑む
梅鉢の広間を充たす香のちから
宇宙から戻り遅れて朝寝かな
涅槃西風人は天地の為すままに
素粒子の頃から(おのこ)は受験生
【夏】
極上(ごくじょう)時間(とき)古葉(こば)の香柏餅
どちらかといえば(おのこ)の柏餅
微風して生命(いのち)を揺らす若葉かな
うっすらと滲む項の薄暑かな
死にたいと言ひつづけおり桜桃忌
大軟派学生服は白飛白
更衣人品骨柄そのままに
微風していのちを揺らす若葉かな
夏帯や老舗女将はなお堅く
香水は微かに聞きて頷けり
宇宙(そら)(おお)き香水星もありそうな
吹き抜ける風は俳風青簾
日傘して地球わずかに覆いけり
梅雨晴れや本伏せたまま外出す
不甲斐なし猛暑に向かひ手巾のみ
巴里祭や雨の名画は耽美主義(デカダンス)
緑蔭に自転車二台寄り添いて
雷は遠くにありて画幅なり
【秋】
幸若を舞ふ信長の夜長かな
フクシマを月観る貌の青白く
栗炊けば昭和一桁機嫌よし
聞こえねど小言を聞きに墓参り
秋出水人の仕業を一掃す
真先往く雁の姿の美しく
そこに在る小さきいきざま衣被
何事も昔のままに秋祭り
辺りから暖色奪ひ秋暮れぬ
銀杏や秘すものありて固き殻
歩をとめてよその子祝ふ七五三
秋雨やぽつりさびしと落ちにけり
全山の(あけ)を集めて濃紅葉
【冬】
出来事をすべて呑み込み冬くろ(くろ)
外套や覆へしものは上辺のみ
往く人の背をぢっと見る年の暮れ
着膨れて凡夫は路地に迷ひ込み
花八つ手陽射し集めて庭模様
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