佐藤遊歩句集 2017年
【新年】
故郷と母の数だけある雑煮
具沢山雑煮の混沌小宇宙
初詣(あら)氏神は町外れ
遠富士は晴間の借景江戸名所
初富士に(こうべ)()れる齢かな
【春】
春塵や巷にマスク美人かな
春埃元を辿れば宇宙チリ
真実はボーっとしたもの春霞
春浅し隣近所は気にならず
春一番右寄りよりも南風強く
幼児の頬膨らむや紙風船
風船の恃(たの)むは己(おの)が大気のみ
富士隠す大塊)は春の雲
振り向けば其の人がいる入り彼岸
春分や昼夜仲良く二等分
盛りにも優る味わい残花かな
気負ふでも縋るでもなく残る花
花冷えは雲上人の嫉妬かな
何気無く何かが動く四月かな
選りに選って富士を隠すか春霞
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鮎食らふ美形なれども躊躇(ためら)わず
若鮎や串に在りても泳ぎおり
不揃ひの中に美味ありさくらんぼ
紫陽花が訪ふ家を教えけり
(まつりごと吾が事にあらず夏木立
夏木立放つは己が緑波のみ
夏帽子競ふは鍔の広さかな
炎天下大河黙して流れけり
星涼し蠍座射手座天の川
【秋】
もうはまだまだはもうなり残暑かな
生れし年国負けし年秋暑し
空だけが()しく残った敗戦日
美風かな瑞穂国の月おくれ盆
新蕎麦や事に言寄せ集ふかな
荒地して美味()れましや走り蕎麦
秋長し小人(にわ)か哲学者
秋刀魚食ふ秋刀魚の許しないままに
秋深し人は秋刀魚に食はれない
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【冬】
酉の市小さき願ひを小社(こやしろ)
頼み事一つ抱えて一の酉
秋の夜はもの思ふには長からず
生き生きて歳の数だけ秋があり
秋深し江戸から続く路地の奥
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